ケアサロンさくら 中重度認知症の人の可能性を広げる 心を揺さぶるアートクラフト

ケアサロンさくらの取り組みが出版されました。

中重度認知症の人の可能性を広げる
「心を揺さぶるアートクラフト」
認知症の人の潜在能力を引き出し「活動」と「参加」を改善するために

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ケアサロンさくらには、他の施設を利用できなくなったり、さまざまなBPSDがある方が申込みをされています。

ケアサロンさくらを利用者様の7割ガ男性、3割が女性です。
認知症介護研究・研修大府センターの調査でも男性利用者が6割を超える認知症デイは全国にケアサロンさくら1箇所しかなかったそうです。この本に登場する認知症の人も、男性がとても多いのです。また認知症が進行して言葉が出にくくなってきている方への支援やかかわりをどうしたら良いかは、私たちにとっても課題でした。今回紹介するのは、ケアサロンさくらでの日々のケアの葛藤を認知症の人と共に乗り越えていった軌跡、写真と文章でつづった記録です。

ページをめくって見ると、アートやクラフトの作業風景が目にとまります。特別な素材を使用しているわけではありません。どこにでもあるものを使って作品を作っています。たとえば、実物とそっくりなさくらの木をダンボール箱で作る方法なども、ご紹介しています。

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またクレヨンを使って、ポール・ゴーギャンの絵の実物そっくりな大作を仕上げてみました。

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失語と失行、拒否や暴力のある方がひたすら色鉛筆で線を描いているうちに、誰も真似できない作品に仕上がっていきました。

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さまざまな作品が出来上がっていく経緯を、出来るだけやさしい言葉遣いで紹介しています。

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かわさき幸クリニック院長の杉山孝博先生のおっしゃるように、どのような状態に置かれても、「感性は生きている」のを私たちも実感しています。

ケアサロンさくら活動内容 ⑩毎日夢中に線を走らせているうちに

 

 

 

 

 

ではその感性をどう表現していただくか?
上の絵のSさんも、はじめに私が絵を描くことを勧めたときには、大変憤慨してしまい、杖で私を叩いたものです。言葉でうまく伝えられない(失語=換語障害)状態がありましたので、自らの苛立ちを暴力という形で表現されたのだと、私はそのとき思いました。そして、Sさんに対して、出すぎた提案をしたかもしれないと思い、ていねいにお詫びすると、Sさんも言葉を搾り出すように「こちらこそ、失礼なことを・・・」と自分の行為を詫びてくれたのでした。

そのことがあった1週間後、Sさんは自ら色鉛筆を手に取るようになり、ひたすらスケッチブックに向かい始めました。上の写真のような線を毎日毎日、数時間も描くようになりました。絵を描いているときのSさんはいきいきしていて、意欲に満ち、瞳が輝いていました。そんなSさんの姿を、私たちは静かに見守るばかりでした。

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ひょっとして認知症の人の可能性を、サポートしている側がつぶしているのかもしれないと、そんな気づきが当初から私の中にありました。実際に多くの現場では、言葉が出にくくなったり、BPSDを伴っていたり、動作がわからなくなっている認知症の人が参加できる活動が「ない」ところがとても多いのです。しかし私は、認知症が進行して不自由さが増しているからこそ、ひとりひとりと対話しながら、さまざまな活動に参加してもらう必要を感じています。イライラしたりウロウロと歩いて落ち着かなかった方のそんな行動が、絵を描くようになって消失した人がいます。落ち着くことが出来ずに、何をやってもうまくいかなくて困り果てていた方が、スケッチブックに向き合ってからは、とても集中して、素敵な笑顔を見せてくれたりもしたものです。

本書は介護や医療の仕事に就いている方に、「こんなこと出来ないよ」と思わずに、目の前の認知症の人の可能性を見つめていただき、中重度の認知症の方の「活動」と「参加」の状況を改善していただきたいという思いをもって、雑誌「認知症ケア最前線」に連載しさせていただいたものに、さらに加筆したものです。介護や医療の現場で悩み、苦労されている方のお役に立てれば幸いです。

なお「心を揺さぶるアートクラフト」QOL出版(オールカラー70ページ、定価1500円税別)については、ホームページのトップにご案内がありますのでご覧下さい。

ケアサロンさくら 稲田秀樹